先日、日本テレビ系列で放送されていた「世界一受けたい授業」でも紹介されていた富士山が美しい江戸硝子のグラスで有名な田島硝子さん。

今回はそんな東京の伝統的工芸品「江戸硝子」「江戸切子」を製造されている、田島硝子さんにお話を伺いました。
東京都江戸川区に工場を構え、親子3代でその技術を継承してきた田島硝子さん。
3代目である代表取締役の田島大輔さんに商品や、江戸硝子・江戸切子の「今」、そして物作りに対する思いをお伺いしました!

もくじ
1 物づくりの工夫
2 チームとして物を作ること
3 若い職人を育てること
4 田島硝子の歴史
5 ライバルという大事な存在
6 最後に

1 物づくりの工夫

現在、江戸硝子を製造されている会社は、6社ほど。その中で型・吹き硝子の製造をしているのは4件だけ。
年々少なくなっている現状があります。

田島硝子では、最初から最後まで一貫したものづくりを行っています。

生産できる個数は1日8時間稼働して、およそ2,000~2,500個ほどです。
ただ、実際製造しても「商品」として出せるのは、そのうちの7割ほど。
実際に硝子を形作る時、商品には空気の泡が入りやすく、不良が必ず生まれます。
一筋縄でいかない物づくり。そんな中でも田島さんは年間50万個の製造を行っています。

なぜ、そんなにたくさんの製造量を生み出せるか、そして江戸硝子の会社として人気商品を生み出せるのか、そこに田島さんの工夫がありました。

2 チームとして物を作ること

田島硝子さんで働く職人さんは、実はチームを組んで動いています。
5チーム編成でチームを組み、そのメンバーはベテランから新人まで様々。色んな年代の方とチームを組むことで活気が生まれ、お互いの刺激になっているそうです。
チームでやるからこそ大事にしていることは、「個人のこだわりだけ」にならないこと。
個人個人でこだわろうと思えば、いくらでも時間をかけることはできます。
しかし、商売には納期がつきもの。その大前提を外さずに、「お客様にわたってこそ商売」という原理原則の部分を、田島さん自身が大事にされていることが伝わってきました。
チームを組むことで他の職人さんのスピードや動きを知ったり、全体を意識することで、自分の仕事をどう次の人へ渡すのかという意識も生まれます。
質にこだわりながら、いかにいいものをしっかり量産できるか、それを大事にされている田島さんだからこそ、考えられていることですね。

吹場23名
加工8名
切子8名
釜炊き2名
でチームを組まれているとのこと。

ちなみに最初の硝子を成形するのに外せない釜の火は10年間絶やすことなく燃え続けているんだそう!
そして、そのガス代はなんと年間約3,000万円!
コロナや昨今のガス代の値上げにより通常230万円くらいだったのが、本年の1月には約2.5倍ほどに上がりました。<2023年2月現在>

さて、TVで紹介された人気の「江戸硝子 富士山ロックグラス」は8年間毎日製造されているそう。
この底面の富士山は言わずと知れた日本のシンボル。詳しく説明をしなくてもぱっと見てわかりやすく、海外の方がおみやげにされることが多いそうです。
ちなみに色のついた飲み物を注ぐとこの富士山に色が反射されるのは、実はたまたまだったそうです。

3 若い職人を育てること

田島さんが特に大事にされているのは、技術の継承です。

田島さん:
江戸硝子の技術を未来に残したい、だからこそ若手の育成に力を入れています。
自分の腕1つで食べてきた、昔ながらの職人さんは人に教えるという感覚ではなく、どちらかというとライバルを蹴落とし、生き残ってきた方々が多いです。
いわゆる職人気質の方。昔はそうして生活を守ってきたからそうなることも仕方ないと思うんです。
ただ、実際そういう方がいなくなってしまうと、その方しかできずに無くなってしまう技術も多いわけですよね。
もちろん、今の時代に合ってない技術や、一過性の流行りだけの技術もありますし、マニアックな技術もあります。
そこだけにならないように色々な技術を残せるように気を付けています。

若手に対する課題としては、上の人がいて、その技術やこだわりによって生まれた付加価値があるからこそ、「今の自分はその仕事ができているんだ」という認識を持たせてあげることだと思います。
やはり育てることが必要です。

物作りをする上で面白いところを見つけられるようにしてあげたい。
ただ、細かい仕事になってくると「私にはできない」となってしまう。日々、仕事は厳しいと思いますよ。ただ、今の若者は昔と違って、仕事で悔し涙を流すような世界観ではない。できなくても無意識で「俺はこれでいいんだ」となってしまっているのも感じます。
それは、仕事の時間外で学ぶ、練習するという感覚が薄いところから感じています。
難しいことですけど、まずは見えるところで、仕事の時間の中で覚えさせてできることを増やしてあげないとならないですね。お金に直結しないところも含めて教えること。
自信を付けさせてあげることが必要です。
来年は赤字になってでも仕事の中で練習させていきたい、育てたいと思っています。
そのストレスに僕が耐えられるかですね(笑)

4 田島硝子の歴史

田島さん:
祖父は元々、別の硝子製造の番頭をやっていました。
空いてる硝子工房の窯を借りて、7、8年くらいやって、頭金を貯めてから独立して今の田島硝子ができました。
父はTHE職人という気質です。ちょうどこの頃、全体で50~60件あった硝子の工房も倒産して、オイルショック、労務など色々なことがありました。

おやじにも「継がなくていい、自分の代でやめる」という言葉を言われましたね。

そんな中、潰れていく他の会社を見て感じたのは、「商売がわからないから潰れたのではないか」ということでした。
その中で自分がたどり着いたのは、まず自分自身が商売を知ろう!ということでした。
そこで、伝統産業で少し近しいジャンル、産地と繋がっている会社である陶器の「たち吉」さんに入社し、営業として商売を知ることを経験しました。
営業として5年やらせて頂く中で、一通り商売や業界のこと様々学ばせて頂きましたね。
最終的には父に土下座して田島硝子に戻りましたね。
戻ったら戻ったで「自分の居場所は自分で探してください」という状況でしたから。

ただ、当時は下請けだったから、商品を作っても中々儲からない。
そこで、切り子以外のものを作りはじめたんです。
そこから、自社商品が増やしていって、今のような形になったんです。
大事にしているのはお客様のニーズに応えることだと思います。

5 ライバルという大事な存在

田島さん:
今後の江戸硝子を盛り上げていくために必要なこと、大事なことは、私は「ライバル」がいるかどうかだと思っています。
ライバルはすごく大事な存在です。
今、江戸硝子・江戸切子の業界は「お互い頑張ろう」というように、一緒にこの業界を盛り上げようとしている状況です!
自分たちの会社だけでなく、窯元同士仲良くやろう、みたいな感じですね。
例えば、「生産に必要な道具を一緒に買わない?」と話し合ったり、得意分野を持ったりと、自分のところだけ一人勝ちすれば良いのではなく、お互いが売れるような状況を作ることだと思います。助け合ったりすることで、ライバルも一緒に育っていく状況が作れればものづくりはもっと盛り上がっていくと思います!

6 最後に

いかがだったでしょうか。
実際にお話を伺ってみて、良い物をお客様の手にしっかり届けるにはどうしたらよいかを追求される田島社長の工夫や、職人さんをはじめ社員の方への思いや、江戸硝子の業界をより良くしていきたい、という強い思いが伝わってくる時間でした。
田島さん、ありがとうございました!